すみれブログ
これは似てないだろ?
2024年04月26日

みなさんは、この商標(上)と、この商標(下)は似てると思いますか?

 

 

 

 

 

 

 

この商標が付されたらお客さんが間違ってその商品を買ってしまうでしょうか?あるいは間違えなくとも販売元がなんか資本関係がある関連会社なのかと誤解しますでしょうか?

 

登録商標としてふさわしくない商標が誤って登録されたときは利害関係人はその登録を無効にするための審判を特許庁に請求することができます。

 

この無効審判の請求があったときは特許庁はその是非を判断することになるのですが、その最終判断である審決に不服があるときは、当事者は特許庁ではなく、相手方を被告として裁判(行政訴訟)を請求することができます。

 

例えば、特許庁で無効審判の請求が成り立たないとの審決、つまり無効審判の請求人側が負けた場合は、その請求人が原告となって商標権者を被告として訴訟を提起し、反対に商標権者が負けた場合(無効審決)は、商標権者が原告となって審判請求人を被告として訴訟を提起します。

 

令和6年3月27日に判決言渡があった令和5年(行ケ)第10068号 審決取消請求事件は、前者のパターンである無効審判の請求人が特許庁の審決、つまり無効でないとの審決を不服として知財高裁に提訴したところ、その主張が認められてその審決が取り消しになった事件です。

 

ちょっとややこしいのですが、要するに特許庁では「その登録商標は無効じゃないよ(有効)」と判断したけど、裁判所では反対に「その登録商標は無効だから特許庁の判断は間違っているよ」と判断した事件です。

 

争いとなった登録商標はこれです。

 

商標登録第6371695号

 

 

令和2年3月11日に出願し、拒絶理由通知を受けることなくそのまま令和3年4月1日に登録になったものです。

 

この登録商標に対し、原告は令和3年7月14日に特許庁に無効審判を請求したところ、特許庁は、令和5年5月18日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、これに対して原告が令和5年6月26日にその審決の取消しを求めて訴えを提起したのです。

 

原告が主張する無効理由は、商標法4条1項11号と同項15号に違反するというものです。つまり、争いになったこの登録商標の出願前に、すでにこの登録商標と類似する原告の商標があるから、この登録商標は誤って登録されたものであって、無効である、というものです。

 

この原告の商標というのがこれです。

 

 

 

商標登録第4640297号

 

誰でも一度は目にしたことがある有名な株式会社丸井の登録商標です。裁判所は争いになったこの登録商標はこの丸井の登録商標に似ているから無効だと判断したのです。

 

でも、みなさんどう思いますか? 似てますか?

 

専門家の私から見てもどうしても似てないと思うし、特許庁もそう判断したので原告の訴えを却下したのです。

 

でも、そもそも商標が似てるかそうでないかってどうやって判断するのでしょうか。裁判官の主観でしょうか。もちろん人間が判断することですから、ある程度は主観が介在する余地は否定しませんが、一応客観的な判断基準というか判例がいくつか存在します。それが以下に示す内容です。

 

「商標の類否は、対比される両商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に、その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、そのような商品又は役務に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかも、その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和45 10 15 20 25 3年2月27日第三小法廷判決(昭和39年(行ツ)第110号)民集22巻2号399頁参照)。」

「また、複数の構成部分を組み合わせた結合商標については、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えると認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合等、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合していると認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されると解すべきである(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決(昭和37年(オ)第953号)民集17巻12号1621頁、最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決(平成3年(行ツ)第103号)民集47巻7号5009頁、最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決(平成19年(行ヒ)第223号)裁判集民事228号561頁参照)。」

 

なんか、難しい表現や文字がたくさんあって読んでるうちに頭が痛くなってきそうですが、一応裁判所はこれら過去の最高裁判例に基づいて商標の類否を判断しているのです。

 

この判例が示す意味をざっくりと説明すると、まず最初の判例は、商標の見た目(外観)、商標の称呼(読み方)、商標から受ける観念(イメージ)および取引の実情を考慮した場合に、その商標を付した商品の出所つまりその商品のメーカーが同じと誤って消費者が誤解してしまうおそれがあるかどうかという視点で判断する。つまり、消費者が商品自体を間違って購入するのではなく、あくまでのその商品の出所が同じメーカーであると誤解する程商標が似ているかどうかで判断するんだよ、ということです。

 

2つめの判例は、商標が複数の構成からなる場合の判断手法を示したものです。商標はまとまりをもった文字だけのものの他に、図形やロゴなどとと組み合わせたもの、さらに文字でも違う書体や意味を組み合わせたものなど様々な形態のものがあります。このような商標は結合商標と呼ばれ、この結合商標とそうでない商標との類否判断基準を示したのがこの判例です。つまり、結合商標はそのすべての要素が結合した商標全体で類否を判断するのが原則であるが、分離して観察することが不自然でないときは分離してその分離した部分同士で類否を判断してもいいよ、といっています。

 

さて、争いとなった登録商標と、原告の登録商標を比較すると、商標全体としては消費者が出所の混同を招くほど類似しているとは到底思えませんよね。争いとなった登録商標は「O!OiMAIN」なる文字列をすべて黒文字で、かつ等間隔でちょっと斜めに傾いた斜体でまとまりよく書かれています。一方、原告の登録商標は、赤いOと縦棒を交互に配置したおなじみの商標です。

 

ところが裁判所は、「O!OiMAIN」は、前半の「O!Oi」部分と後半の「MAIN」とは分離して観察することが不自然でないし、そうすると前半の「O!Oi」と、赤いOと縦棒を交互に配置した原告商標を比べると見た目や観念が共通するから両商標は類似する、との判断したのです。

 

でも、これってどうでしょうか?そもそも「前半の「O!Oi」部分と後半の「MAIN」とは分離して観察することが不自然でない」という判断はどうみても納得できないのですが、みなさんはどう思いますか?これじゃいくら何でも商標権者が気の毒です。私が代理人だったら裁判官にくってかかりそうです。

 

でも、この判決理由をよく読んでみると、被告の商標権者は「O!Oi」部分を切り離したような態様の「OIOI」、「OiOi」、「O!Oi」等の標章を実際に使用していたり、「O!OiCOLLECTION」のように「O!Oi」部分と他の文字を組み合わせて使用していたりしますので、裁判所はこれらの取引の実情を考慮して「前半の「O!Oi」部分と後半の「MAIN」とは分離して観察することが不自然でない」と判断したのかもしれません。

 

ですので、商標権者がもしこのような「O!Oi」部分を切り離したような使用をしていなければ、結論はまた違っていたかもしれませんね。

 

にほんブログ村 経営ブログ 経営者へ

特許の値段
2024年02月7日

特許権は知的財産権と言われるように財産権の1つですから、それを他人に譲渡して換金することができます。

 

では、その値段(譲渡金額)は平均でいくらくらいでしょうか。特許庁が公表した2023年のデータによると……、といいたいところですが、残念ながら特許庁はそのようなデータは公表しておりません。

 

でも、特許権の譲渡は登録人の名義変更という手続きによって比較的頻繁に行われていることから、無償というのは考え難く有償が殆どだろうと推測されます。弊所でも年に1,2件程度、特許権の移転手続きを行っていますが、相続を除き有償のケースが殆どです。

 

で、その譲渡金額ですが、特許権の適正な価値、価格を決定するのはとても難しいです。巷には様々な価値評価手法があるようですが、それで算出された価格が適正なのかどうか議論が分かれるところです。

 

というのも土地や建物のような不動産や中古車などであれば周辺地域や車種ごとの相場という基準がありますが、特許権にはそのような相場というものがないのです。

 

しかも、特許権は発明という技術的思想であって実体がない上にいつかは消えて無くなってしまう実に儚い権利です。その命は最大でも出願から20年、医薬品のような特殊なものでも25年です。土地のような不動産であれば日本が沈没しない限り未来永劫残りますが特許権はそうではありません。

 

加えて、その権利の内容である発明の内容も既に製品化されてその業界では他社の追随を許さないような強力なものから、現在又は将来に亘ってまったく実施される可能性がない殆ど無価値のものまでまさに玉石混交です。

 

これはある意味骨董品に似ており、値段が付けられない国宝級のものから殆どガラクタ同然のものまであるから一概にはいえない、と当職もクライアントから質問されたときにお茶を濁すような回答をしています。何億円積んでも譲って貰えないものがある一方、ただ同然でも引き取ってもらえないものまでその価値は実に様々です。

 

とはいっても、それでは回答にならないのでとりあえず譲渡価格の1つの指標として、その特許を取得して現在までかかった総費用を算出し、その費用を基準として考慮しては如何でしょうかというアドバイスをしています。

 

特許は取得する段階だけでなく、取得後も特許料という名目の固定資産税が毎年係りますので、例えば特許取得までに係った費用が70万円、その後に支払った特許料が30万円であったとすると、合計100万円を基準とし、これにそのときの状況に応じて+αまたは-αすればよいのです。

 

これは特許権だけでなく商標権や意匠権、著作権も同じですので実体のない知的財産権の譲渡金額を決めるための指標としては当事者が最も納得しやすいとても便利なものです。

 

にほんブログ村 経営ブログ 経営者へ

審査請求はいつがいいの?
2021年12月16日

出願審査請求の手続きを何時するかは、簡単なようで実は結構難しい問題です。結論からいえば、審査請求手続きはできるだけ遅い方がよいというのが当職の考えです。以下にその理由を述べます。

続きを読む

商標話し(1)iPhoneとアイホン
2021年11月18日

商標に関わる仕事をしていると面白いケースが見つかります。専門的すぎるとわかりにくいので有名なケースをいくつか上げてみましょう。

 
続きを読む

従業員の発明は誰のもの?
2020年09月16日

職務発明制度がわかりにくいとのご指摘がありましたので以下できるだけわかりやすく説明します。

 

続きを読む