すみれブログ
商標話し(1)iPhoneとアイホン
2021年11月18日

商標に関わる仕事をしていると面白いケースが見つかります。専門的すぎるとわかりにくいので有名なケースをいくつか上げてみましょう。

 

1.iPhone
米国のアップル社が製造販売するスマートフォンの商標で知らない人がいないほど世界的に有名な商標です。

 

当然この商標の権利は日本でもアップル社が所有していると思っている人が多いでしょうが、実は日本での商標権者はアップル社とはなんら関係のないアイホン株式会社という日本の企業です。

 

アップル社はこのアイホン株式会社が所有する「iPhone」という登録商標(商標登録第5147866)を使わせてもらっているに過ぎないのです。

 

なぜそうなっているのかその詳しい経過や事情は当事者しかわかりませんが、特許庁が提供する特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)をみればそのおおよその経緯を推測することができます(包袋閲覧すれば正確にわかりますがお金がかかりますので以下はあくまでも推測です。間違っていたらごめんなさい)。

 

アップル社は「iPhone」という商標を日本で取得するために2006年9月19日に日本の特許庁に商標登録出願(商願2006-08690)をしました。指定商品区分は第9類と第28類です。

 

ところがアップル社はその約4ヶ月後(2007年1月15日)に特許庁から拒絶理由通知を受けます。すでに日本で「iPhone」と類似する先登録商標があったのです。アイホン株式会社が所有している登録商標です。

 

 

 

 

登録第046472号(第9類:電信機,電話機)

 

 

 

登録第0808390号(第9類:電気通信機械器具)

 

登録第2382806号(第9類:配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電池,電線及びケーブル,電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気ブザー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品

 

 

このように出願した商標が他人の登録商標と似ているから登録できない、との拒絶理由通知(商標法第4条第1項第11号)を受けた場合の対応としてはいくつか考えられます。

 

(1)類似していないとの主張
まず、意見書を提出して出願商標が他人の登録商標(引用商標)と類似していないと主張することです。商標の類否判断は、同一・類似の商品に使用した際に出所の誤認混同が生じるか否か、具体的には商標の外観、称呼、観念に基づいて取引の実情を考慮して総合的に判断されます。この判断基準に基づいて考慮すれば出願商標は引用商標と類似していないと審査官に説得させれば拒絶理由は解消されて登録になります。

→しかし当然ながら審査官は過去の判例や審決、審査基準等に精通した審査のプロですのでその心証を覆すのは容易ではありません。出願商標「iPhone」と登録商標「アイホン」は外観(見た目)は異なりますが、「iPhone」は「アイホン」または「アイフォーン」と読めますので称呼は同一・類似と判断されても仕方ないかもしれません。またその商標から特別な観念も生じませんから総合的に判断すれば両商標は類似していないとの主張が認められる可能性は低いでしょう。

 

(2)引用商標の無効、取り消し
類似していないとの主張が無理であれば、次の手として引用商標の商標権を無効にしたり、取り消しにする方法があります。間違って登録されたり、登録後3年以上商標を使用していなければ、引用された登録商標を無効又は取り消しすることができます。引用商標が取り消されれば出願商標と抵触する他人の登録商標がなくなりますので拒絶理由は解消されて出願商標は登録になります。

→しかし、引用商標に無効理由がなかったり実際に使用している場合は無理ですし、無効審判や取消審判をするには時間もお金もかかるというデメリットがあります。また、敵対的な関係になりやすくその後の交渉が難しくなります。

 

(3)商標権の買い取り
引用商標の商標権を買い取る方法もあります。引用商標の商標権者と出願商標の出願人が同一であれば類似する商標を使用しても出所の誤認混同が生じないからです。交渉により引用商標の商標権を買い取り、その名義を出願人に変更すれば、出願商標と抵触する他人の登録商標がなくなりますので拒絶理由は解消されて出願商標は登録になります。

→しかし引用商標の商標権を譲ってもらえなければこの方法は無理です。特に引用商標「アイホン」は商標権者の社名と同一でしかも50年以上も使用しているブランド名ですので譲ってもらえる可能性はかなり低いでしょう。

 

(4)出願人名義変更
(3)の商標権の買い取りに似ていますが、交渉により出願商標を一旦引用商標の商標権者に名義変更して引用商標の商標権者の名義で登録してもらう方法です。上記のように出願人が同一であれば類似する商標であっても登録になるからです。そして、登録になった後にその商標権を譲り受けるか、あるいはその商標権者から専用使用権を設定してもらう方法です。

→かなりの妥協策ですがなんとしてもその商標を日本で独占的に使用したい場合にはこの方法が有効です。当然、商標権者の協力が必要ですし、相応の費用も必要です。

 

出願経緯をみてみると、なんとしても「iPhone」という商標を使いたかったアップル社はこの(4)の方法を採ったようです。拒絶理由通知を受けた後の2008年4月2日に許可を得て出願人名義変更届を提出し、その約2ヶ月後に登録査定になっています。しかし、商標権の譲り受けまでは無理だったようで登録直後の2008年7月30日に専用使用権の設定がなされています。

 

これにより現在アップル社は商標権者ではないけれど日本で「iPhone」の商標を独占的に使用できる状態となっています。

 

ちなみにネットによればアップル社から商標権者に支払われる商標の使用料は年間1億円との情報がありますが定かではありません。

 

また、アップル社からアイホン株式会社に名義変更されたのは指定商品のうち第9類だけのようで、残りの第28類についてはその後分割出願がなされ、アップル社名義で登録になっています(登録第5147917号)。

 

→商標話し(2)につづく

 

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