すみれブログ
審査請求はいつがいいの?
2021年12月16日

出願審査請求の手続きを何時するかは、簡単なようで実は結構難しい問題です。結論からいえば、審査請求手続きはできるだけ遅い方がよいというのが当職の考えです。以下にその理由を述べます。

特許出願しただけでは特許庁は審査をしてくれませんので、出願人は、以下のフローのように特許出願の日から3年以内に特許庁に審査請求の手続き(審査料の支払い)をする必要があります。特許出願の日から3年以内であればいつでもできますので、出願と同時または3年の期限ぎりぎりにしても出願人の自由です。

 

特許庁の審査は、審査請求された順番に行いますので、早く審査請求すれば、その分早く審査結果が得られます。現状では審査請求した日から約10~12ヶ月程度で最初の審査結果がきます(早期審査制度では約3ヶ月程度で最初の審査結果がきます)。

 

審査の結果、拒絶理由がなければ、特許査定(OK)となりますが、拒絶理由があればその理由と共にその拒絶通知がきます(実務上、十中八九はこの拒絶理由通知です)。この拒絶理由通知に対しては、意見書や補正書を提出して反論し、再審査を受けることができます。

 

さて、上記のように特許庁の審査は、審査請求された順番に行います。早く審査請求すれば、その分早く審査結果が得られますので、できるだけ早くしたほうがよいように思います。

 

しかし、仮に上記のように審査の結果NGになった場合には、出願人の発明はその後、誰でも自由に実施できる状態になります。

 

つまり、以下のフローのように特許出願の日から1年6ヶ月後にはすべての特許出願はその内容が公開されますので、だれでも自由に見ることができ、実施できることになります。

 

お金をかけて特許出願したにも拘わらず、特許が獲れないばかりでなく、その発明や明細書や図面に書かれたノウハウを世間に無料で公開してしまう結果となり、出願人にとっては踏んだり蹴ったりです。また、仮に特許になったとしてもその範囲が限定的(狭い)であると、他人は簡単にそれを回避した模倣をする可能性もあります。

 

そうなると、特許出願なんてしないほうがいいという極端な考え方もできますが、自社の製品が市場に出回った結果、他社がそれを模倣したときに、それを止める法的手段(法的根拠)がなにも無くなってしまいます。他人の盗用を指をくわえて見てるだけで悔しい思いをするだけです。

 

このように審査請求を早くすると結果がすぐに出てしまうため、広い範囲で特許を獲れればよいのですが、仮にNGになったときや権利範囲が狭いときのデメリットが非常に大きくなります。

 

一方、審査請求を3年ぎりぎりまで遅くした場合には、その間は特許になるかどうかが分からないグレーな期間ですので、他人は、その最終審査結果ができるまで、その発明を実施できるかどうかが分からない状態が長く続きます。また、権利範囲も決まらないため、他人は、その明細書や図面に書かれた発明の最大の範囲で特許が認められたケースも考えて行動する必要があります。

 

審査請求の期限は出願日から最大で3年、審査請求した日から最初の審査結果が届くのが約1年、仮にNGであってもその後不服審判や行政訴訟を起こせば、最終的に特許にならなかったとしてもそれが確定するのには、出願日から5年以上かかります。

 

つまり、審査請求を3年ぎりぎりまで遅くした場合には、出願日から5年以上は他人の模倣を牽制できる可能性があり、その間は実質的にその発明を独占できるという効果があります。

 

審査請求をできるだけ遅くした場合には、このような出願人にとって有利な効果があるため、特許法では、審査請求は出願人だけでなく、だれでもできるようにしています(特許法第48条の3)。出願された発明が特許になるかどうかの白黒をできるだけ早くはっきりさせたいという他人のニーズ(不利益)があるからです。なお、以前はこの審査請求期間は出願日から7年でしたが、長すぎる(出願人に有利すぎる)という理由で3年に短縮されました。

 

ですので、上記のように審査請求手続きはできるだけ遅い方がよいというのが当職の考えです。

 

その一方、できるだけ早く審査請求手続きをしたほうがよいというケースもあります。

 

第1にすでに特許出願の発明が他人に模倣されて損害が発生している場合です。

模倣している相手の行為を止めさせるためには、出願された発明が特許になっている必要がありますので、できるだけ早く審査請求すべきです。

 

第2に日本だけでなく外国出願も考えている場合です。

特許は国ごとに成立しますので外国で特許をとるためには希望する国ごとに手続きする必要がありますが、その費用は高額になります(1カ国あたり約100万円)。

 

外国への手続きは日本に出願してから1年間の猶予期間がありますので、その間に日本で特許になるかどうかの結果を知ってから手続きしたいというニーズがあるからです。この場合は日本への出願後にすぐに(早期)審査請求を行い、その結果を待ってからその後の外国出願をするか否かの判断や出願する国を決めることになります。

 

第3に、審査にパスできなかったときのために、その出願の事実や内容を闇に葬るために裏技的に出願とほぼ同時に早期審査請求をするというやり方もあります。

 

つまりフローに示すように出願から1年6ヶ月の間は、その出願の事実や内容は秘密状態ですので、その間に特許になるかどうかを早めに知っておき、仮に特許になりそうもない場合には、すぐにその特許出願を取り下げれば、誰にも知られることなくその出願の事実や内容を闇に葬ることができます。この方法であれば、NGだったときのデメリットを解消できますが、特許出願している状態の牽制効果は得られません。

 

なお、中小企業などを対象とした早期審査は、通常1年程度係る審査期間が約3ヶ月程度に短縮されるだけですので、上記第1から第3のようなケースであれば利用価値がありますが、そうでなければメリットはあまり多くないように思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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