すみれブログ
IDSする?しない?
2013年11月12日

米国で特許を取得するためには、PCT経由で米国を指定するか、あるいは直接米国に出願した後、米国特許法で規定された手続きに従って特許を取得することになります。

 

米国では日本のような出願審査請求制度がありませんから、出願時に必要なオフィシャルフィーを払いさえすれば、すべて審査され、やがてその審査結果が届き、それに対して不服があれば補正したり、意見書を提出することができます。また、日本のような出願公開制度もありますので審査結果にかかわらず所定の時期に公開され、だれでもその内容を知ることができます。

 

このように米国での手続も基本的には日本や他の国と同じですが、米国には情報開示制度(IDS)という、他の国にはない独特の制度があります。

 

この情報開示制度(IDS)というのは、出願人サイドが知っている(特許性の否定材料となる)関連する先行技術を提供せよという制度ですが、これはある意味出願人自ら首を絞めるようなものです。もちろん、これに従わず敢えて隠しておいても審査官はそういった情報は無いものとして審査を行いますので、わざと出さないという戦略もあります。

 

しかし、後でこれがばれると極めて厳しいペナルティが待っています。なんと、その特許権の権利行使が認められないのです。わざわざ、手間暇かけて特許をとったというのにこれが使えないなんていうのでは堪ったモノではありません。

 

そのため、出願人サイドとしては渋々これに従うわけですが、これが提出期限やら手続方法などに細かい決まりがあって結構面倒なのです。しかも、米国特許庁(USPTO)へ提出するための費用は原則として無料ですが、その手続は現地代理人に頼むことになりますのでその都度数百ドルの手数料を払わなくてはならず、何件もあるとその費用もかなりなものとなります。

 

米国出願時にまとめて提出しておけばいいじゃないかと考える人もいますが、通常米国出願した場合、その特許は米国だけでなく日本や欧州、中国などにも出願していますので、先に他の国の審査で新たに引用文献を提示されることが多く、その場合にはその都度IDSをしなくてはならないのです。

 

それじゃ新しく引用された文献はすべてIDSしなきゃならないのかというとそうではありません。あくまでも提出義務があるのは特許性を否定するための重要な情報であって、関連性の低いものは提出する必要はありません。しかし、実際にはこの判断は非常に難しいため、リスクヘッジのためにすべての引用文献を提出するのが実務になっているのです。…が、なにか釈然としませんでした。

 

ところが、このIDSに関して最近米国連邦控訴巡回裁判所(CAFC)で極めて重要な判決がなされました。詳細は例えばこちらのサイトをご覧いただくとして、要はIDSしなかった出願人サイドに騙す意図(悪意)が明らかでかつその隠した事実が重要であった場合にのみIDS違反として上記のペナルティを課すというものです。

 

従って、出願後に新たに見つかった先行技術であってもそれが出願人サイドで騙す意図がないかあるいは重要な事実でないと考えれば、敢えてIDSする必要はないと考えることができます。

 

しかし、総合的に考えればこれは得策ではないと思います。実際にIDS違反が問題になるのは審査の段階でなく訴訟の段階です。権利行使を受けた相手方(訴訟代理人)は、なんとしてもそれを免れるために特許無効の主張などと併せて必ずIDS違反を主張してくるはずです。特にディスカバリー制度を採用している米国では、IDSした資料はもちろんしなかった資料も相手方に筒抜けになりますので隠し通すことはできません。その都度、騙す意図がなく重要な事実でもないことを証明しなくてはならず、ただでさえ面倒な公判前手続がさらに複雑になる上にそのための費用も膨大になることが予想されます。

 

弁護士費用だけでも数億円かかると言われる米国での特許訴訟のことを考えれば、IDSのための数百ドルはオフィシャルフィーと同様に最低限の必要経費と考えた方が良さそうです。

 

ちなみに、この情報開示制度(IDS)にしろディスカバリー制度にしろ、米国人というのは昔から不公平とか不意打ちといったものを極端に忌み嫌う国民ですね。
何か歴史的な事情(Remenber the Pearl Harbor?)かあるいは民族的な理由があるのでしょうか。

 

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