
商標登録って、「1つの商標ごとにお金がかかる」というきまりになっています。
そのため、守りたい文字やマークが複数あると、そのぶん出願費用がどんどん高くなってしまうのが悩ましいところです。
そこで昔から、費用を抑えるためのちょっとした「知恵」として、実務でもよく使われてきた方法があります。
それが、2つの要素を結合させて1つの商標として出してしまおう、というやり方です。
例えば、日本語と英語を上下に並べる「2段併記」や、ブランド名とロゴの図形を1枚の絵にまとめる「結合商標」などがそれにあたります。
私もかつてこの「2段併記」の手法を使って商標をいくつか申請したことがあります。
限られた予算の中で、できるだけ広く自社のビジネスを守ろうと思ったら、これは間違いなく「賢くて実用的な選択」だからです。
ただ、この結合商標、ものすごく便利でメリットも大きいのですが、いざトラブルが起きて裁判になったりすると、ちょっとした「落とし穴」が見えてくることがあります。
今回は、少し前に話題になった「餃子フェス」の商標をめぐる裁判(令和7年(ワ)第70055号)を例に、この手法の「良いところ」と「気をつけたいところ」を、ざっくばらんに紐解いてみたいと思います。
まずは「結合商標」のうれしいメリット
最初に言っておきたいのですが、この結合させて登録する方法は、決して悪いことではありません。むしろ、スタートアップや中小企業の立ち上げ期には、非常に強力な味方になります。
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なんといっても、コストパフォーマンスが良い
日本語と英語、あるいは文字とロゴマークを1回分の費用でまとめてカバーできるので、予算に限りがあるときは手軽に「守りの網」を広げられます。
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審査に通りやすくなる(登録されやすい) 普通の言葉(ありふれた言葉)単体だと特許庁の審査で落とされやすいのですが、英語や特徴的なロゴマークと合体させることで「1つの新しいデザイン」とみなされ、合格しやすくなるというメリットもあります。 本件の原告が持っていた商標(第6023253号)も、上段に「餃子フェス」、下段に「Gyoza Festival」と書かれた2段併記の形にすることで、なんとか登録を勝ち取っていました。

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「商標登録マーク(®)」を堂々と使える
自社のホームページやパンフレットに「®マーク」や「商標登録済」と書けるだけでも、競合他社に対する強いアピール(マネしないでね、という無言のプレッシャー)になります。これだけで予防できるトラブルもたくさんあります。
このように、初期の「お守り」としては、これ以上ないくらい優秀なやり方なのです。
では、何が「落とし穴」なのか?
その理由をかみ砕くと、以下の2つのポイントに集約されます。
① バラバラに真似されると「別物」と言われやすい
相手のイベント名「全国ぐっと!!餃子フェス」には、当然ながら英語の「Gyoza Festival」は書かれていません。 裁判所は「原告の登録商標は、日本語と英語が上下セットになった『結合した見た目』ですね」と判断しました。そのため、相手の表記とは「全体の見た目が全然違う(似ていない)」ということになってしまったのです。

これは「文字とロゴ(図形)」を結合させて登録した場合も同じです。
相手が「文字だけ」を真似してきたとき、「あなたが登録したのはロゴと文字のセットの絵だから、文字だけならセーフでしょ」と言い逃れされてしまうリスクが高まります。
② そもそも、ベースの言葉が「ただの説明文」だと厳しい
もう一つの理由は、相手が単体で使っていた「餃子フェス」という文字についてです。 そもそも「餃子フェス」という言葉自体が、「餃子のイベント(フェスティバル)」を表すただの説明文にすぎません。 商標法には「単なるサービスの中身や説明にすぎない言葉は、登録されていても他人が普通に使うのを禁止できない」というルールがあります(第26条1項6号など)。
つまり、結合させて「審査に通りやすくした」ぶん、いざ使うときには「その結合した見た目(日本語+英語)そのまんまじゃないと権利を主張しにくい」という、トレードオフの関係があるわけです。
見た目は強そうだけど、喧嘩したらめちゃくちゃ弱かった。2段併記商標ってはったりだけのヤンキーみたいなものです。
商標は「出すだけ」なら簡単、だけど……
ここで少し、実務の話をさせてください。
ネットの情報を見ていると、たまに「商標登録なんて、願書を1枚書いて特許庁に郵送する(またはネットで送る)だけだから、素人でも簡単にできる!」なんて書かれているのを目にします。
確かに、手続きの「作業」そのものは、マニュアル通りに進めればそれほど難しくありません。いまはAIに頼めば一発でそれらしい願書ができます。
ですが、本当に難しいのは「手続きをする前段階」にあります。
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「そもそも、この名前は本当に安全に使えるのか?(他人の権利を侵害していないか)」
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「自社のビジネスモデルから考えて、どの『区分(役務)』で権利を取るべきか」
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「他人に真似されないために、どういう形で登録しておくのが最も効果的か」
こういった判断は、AIでは無理です。いまのところ(汗)。膨大な過去のデータ(判例や審査基準)や、実務での経験、そして「もし裁判になったらどうなるか」という未来の予測があって、初めてできるものです。
今回の「餃子フェス」のケースも、形式的に「登録できた(お守りはある)」という状態にはできましたが、いざ実戦(侵害訴訟)になったとき、専門知識に裏打ちされた事前の設計が弱かったために、結果的に権利が機能しませんでした。
商標登録は、役所に提出する書類の書き方が重要なのではありません。「どのような権利の設計図(ビジネスの防具)を作るか」がすべてです。この設計図を作る部分こそが、私たち弁理士の知恵や経験が最も発揮される部分であり、プロに任せる最大の価値だと思っています。
まとめ:ビジネスの「ステージ」に合わせて使いこなす
今回の裁判から学べる本当に大切なことは、2段併記や結合商標がダメだということではありません。
それぞれの特徴をよく理解して、「今の自社にとって、どの守り方がベストか」を戦略的に使い分けることです。
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創業期や、まずは予算を抑えて広く浅く全体を守りたいとき
「2段併記」や「文字とロゴの結合出願」は、とても賢くて現実的な選択肢です。
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ビジネスが軌道に乗り、絶対に他人に真似されたくない大切なブランド名ができたとき
コストをかけてでも、日本語・英語・ロゴマークをそれぞれ「単体」で別々に取得し、隙のない強い権利を作っておくのがおすすめです。
商標は一度取って終わりではなく、会社の成長や予算に合わせて「育てていくもの」です。
「通しやすい商標」を、どうやって「本当に使える強い権利」に育てていくか。
目先のコストと将来のリスクを天秤にかけながら、一緒に最適な作戦を考えていければと思います。
うちの商標は今のままで大丈夫かな?と気になった方は、いつでもお気軽にすみれ国際特許事務所までご相談ください。
