すみれブログ
パテントトロールは悪者か?
2021年10月28日

みなさんはパテントトロールというのをご存じでしょうか。特許に興味を持たれたことがある方であれば一度はどこかで耳にしたことがあると思いますが、果たしてどういう意味なのでしょうか。

 

Wikipediaによれば、
「パテント・トロールまたは特許トロール(英: patent troll)は、一般的には定義が困難であるが、自らが保有する特許権を侵害している疑いのある者(主にハイテク大企業)に特許権を行使して巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする者を指す英語の蔑称で、その多くは、自らはその特許を実施していない(特許に基づく製品を製造販売したり、サービスを提供したりしていない)」とのことです。

 

この定義によれば、自ら実施していない特許権者がその特許権を侵害している疑いのある者に対して権利行使するとパテントトロールになるようです。ん~、さすが誰でも編集できる無料の知恵袋だけであって相変わらずよくわからないですね。

 

一方、野村證券株式会社の証券用語解説集によれば、
「パテント・トロール(patent troll、特許の怪物)とは、第三者から買い集めた特許権を行使し、自らは事業活動を行わずに、実際に製品の製造・販売などを行っているメーカーなどに対して多額のライセンス料の支払いを求めたり、巨額の賠償金目当てに特許権侵害訴訟を仕掛ける組織や企業のこと」とのことで、こちらの方がややしっくりくるような気がします。

 

いずれにしてもどちらの定義からもパテントトロールというのは、自分では実施していないくせに、他人から買い取った特許権を使って第三者から多額の金銭を強請り取る悪い奴らという印象を受けます。

 

でもこのパテントトロール達は本当に違法なことをしている悪い人たちなのでしょうか。もしそうであれば、詐欺や恐喝容疑で摘発されたり逮捕されたりする筈ですが、そのようなニュースは聞いたことがありません。

 

実はこのパテントトロールという人たちの行為は、違法なことでもなんでもなく法律で認められた合法的な正当な権利行使なのです。

 

特許権で保護された特許発明は、特許権者自らが独占的に実施する他に、他人に実施を許諾することが認められています(特許法第77条、78条)。また、有償、無償を問わずその特許権を他人に譲渡することも自由です(特許法第98条)。

 

つまり、特許権で保護された特許発明は必ずしも特許権者自ら実施する必要はなく、他人に実施許諾してそのライセンス料を得たり、譲り渡してその譲渡益を得ることができるのです。特に、大学等の研究機関や個人発明家などは、自らその特許発明を実施するよりもその特許発明を企業や他人に売ったり実施させることを目的として特許権を取得するケースが一般的です。

 

そうすると、第三者から特許権を買い集めることはなんら違法でないことは明らかですし、特許権者はその自らの特許権を侵害する者に対してその侵害の停止を要求したり、損害賠償や実施料に相当する金銭を要求することは特許権者に当然に認められる行為ですので、なんら問題はありません。

 

これを土地や建物などの不動産に例えればわかりやすいとも思います。他人に不法に占拠されている土地や建物を買い受けた者がその不法に占拠している他人に対して立ち退きや賠償金を要求する行為は当然認められる行為であり、誰にも責められる謂われはないのです。責められるべき者はその不法に占拠している人たちの筈です。

 

でも、なぜかこれが特許権となるとパテントトロールという蔑称でよばれ、その行為が非難されてしまいます。特許権も土地や建物のような所有権と同じ財産権であり、それを自ら護るための行為がさも違法な行為のように報道されるのはなぜでしょうか?

 

私権は公共の福祉に適合しなければならない、権利の行使および義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならない、権利の濫用はこれを許さない、という民法の基本原則があります。パテントトロールがこの民法の基本原則に違反する行為なのかどうかが問題となりますが、探してもいまのところ判例が見当たらないのでなんともいえません。

 

しかし、パテントトロールの行為がこの民法に規定する権利濫用とか、公共の福祉、信義誠実の原則に反するというのは少し違うような気がします。

 

とはいってもあまり褒められた行為でないのは誰にも直感的にそう感じます。なぜでしょうか?自ら実施しないことや他人から特許権を譲り受けることは上記のように何ら問題はありません。では金銭目的が悪いのかというのであれば、そもそも個人や民間企業は営利(お金)目的で社会活動していますのでそれも理由とはなりません。

 

強いて理由を挙げるのであれば、やはり道義的や商慣習的な理由が大きいと思います。特許権というのはかつて無体財産権と呼ばれたように実体のない権利ですので無知や無関心が原因で無意識(うっかり)に侵害しているケースが殆どで、悪意で実施しているケースは希です。

 

市場で見かけた製品が他人の特許発明であることも知らず、あるいは調査もせず、それと同じまたは似たような製品を製造して販売したところ売り上げが好調であったためにずるずると継続して実施しているケースです。自分で発明したものが偶然他人の特許発明と同じであったということもあるでしょう。これは著作権や商標権、意匠権などでも良く起こり得るケースです。

 

別に物や金を盗むものではないから真似するくらいいいじゃないかという意識がどこかにあって、知的財産権全般が世間一般から軽く見られている側面もあるかもしれません。

 

こういったことは何も中小・零細企業だけでなく、大企業でも起こり得ることですのでパテントトロール達はそのような事例を見つけては、あるいは実際は侵害してないのに半ば強引に解釈して特許権を盾に多額の賠償金を要求するのです。そして、そういった他人の無知やミスにつけ込んで多額の賠償金を請求する行為に対して多くの人が違和感を覚えるのではないかと思います。しかも違法な行為でないから却ってたちが悪いし、対応が難しくなってくるのです。

 

こういったパテントトロール達は、プロパテント政策(パテント重視政策)の欧米では多数跋扈しているのですが、日本ではあまり見かけません。その理由としてはそもそも日本では裁判での特許権者の勝訴率が低くビジネスとして成り立たないのが原因といわれていますが、将来どのようになるかはだれも予想できません。

 

現代のビジネスマンであれば、自社で実施しているあるいは実施しようとしている商品が他人の知的財産権を侵害していないかどうかを改めて確認しておくこと、仮にパテントトロールに狙われたときのためにどのような対策をしておくべきかを予め検討しておくことは極めて重要です。

 

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