すみれブログ
特許がワクチン生産拡大の障害?
2021年05月7日

バイデン政権が新型コロナウイルスのワクチンに関して、「特許権の放棄を支持する」との声明を出したことが各国のニュースで大きく取り上げられています。

 

インドや南アフリカのような多くの発展途上国が、「特許や知的財産の保護を義務付ける規則が、パンデミックに対処するのに必要なワクチンやその他製品の生産拡大を妨げている」と主張して世界保健機関(WHO)に対して知的財産権の放棄(特許の無効化)を求めていたのに対して、バイデン政権がこのような反応をしたとのこです。

 

まるで特許がワクチン生産拡大の障害になっているような内容ですが、知的財産権の専門家としてはとても違和感を感じます。

 

現在発展途上国を含む殆どの国(約160カ国)が加盟している世界貿易機関(WTO)の「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)」では、国家緊急事態その他の極度の緊急事態の場合は特許権者の許諾を受けなくともその特許発明を実施できる旨の規定があります(第31条)。

 

また、日本の特許法にも公共の利益を目的とした使用の場合は法定の通常実施権の設定が可能であり、特許権を制限できる規定もあります(第93条)。

 

つまり何を言いたいのかというと、今回の世界的なパンデミックのような国家緊急事態に対処するためには、特許などの知的所有権の存在に関係なく(無視して)、各国とも自由にワクチンや医薬品を製造して使用してもいいのです。

 

そしてパンデミックが収まったならば、それ以上のワクチン製造は中止し、それまで製造したワクチンの特許使用料を特許権者に支払えば良いのです。これは上記のTRIPS協定で合意した内容であり、合法的な行為なのです。

 

国際製薬団体連合会(IFPMA)もこのような対応に対して、「権利放棄は複雑な問題に対する無知で間違った解答」であり、今回の動きに「失望した」と述べています

 

ワクチンや医薬品の開発には最先端の技術と数千億円という莫大な費用がかかります。製薬メーカーはその莫大な費用を特許という独占権で回収し、回収した特許料でまた新たな医薬品を開発するというサイクルで成り立っているのです。その権利を放棄させるというのは特許制度を知らない無知の発想としか思わざるを得ません。

 

当然バイデン政権もそんなことは知っているでしょうから、これはどこか何かを意識する政治的なパフォーマンスなのでしょう。

 

特許は本来秘密にしたい技術を公開する代償として付与されるものですので、その発明の内容は特許出願書類をみれば当業者であればだれでも実施できる程度まで開示する決まりとなっています。もちろんワクチンなどの医薬品関連特許も同様です。

 

しかし、特許出願書類で公開される内容はいわゆる料理のレシピのようなものだけであり、実際にそのワクチンを製造するためには、専用の生産・管理設備や原料、多くの技術者が必要となります。さらに生産されたワクチンを実際に使用するためには、臨床試験などの実施や許認可などの手続きも必要となってきます。

 

つまり、多くの国でワクチンが不足しているのは特許が障害ではなくアメリカやイギリスのような一部の先進国を除く多くの国でワクチンを自国で生産する技術的な能力が無いというのがその主な理由なのです。

 

日本はかつて世界をリードするワクチン先進国といわれたようですが今は外国人が作るワクチン頼りです。たしかに日本ではいままでワクチンの需要が乏しかった上に医療過誤などに対するマスコミの過剰報道によって製薬メーカーのワクチン開発へのインセンティブがなくなったのはわかりますが、なんとも情けない限りですね。

 

政府もアベノマスクや給付金のようなほとんど効果の無いことに税金を使うのではなく、国内製薬メーカーに対して早急に国内ワクチンの開発・生産を後押しするような大胆な支援をすべきです。

 

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