すみれブログ
赤色LEDがノーベル賞を授与されないワケ
2016年04月22日

今月号のパテント誌(弁理士の業界紙)には、かつて巨額の支払い命令がでた青色LED訴訟の原告側弁護人だった升永弁護士のインタビュー記事が載っていましたね。

 

この裁判、東京地裁では原告である中村修二氏(14年ノーベル賞受賞)の主張を全面的に認めて600億円もの支払い命令を出したものの、控訴審では6億円(延滞金を含めると8億4千万)まで大幅に減額されてしまい、結果的に原告側がその条件で和解したという有名な事件です。

 

これらの一連の裁判では地裁での巨額の支払い命令はもちろん、高裁での1/100の減額判決もびっくりでしたが、この記事によればこの控訴審の判決を受けた中村教授は当然、高裁の判決には納得いかず120%上告するつもりだったようです。ですが、上告しても絶対勝てないという升永弁護士の強い意見に折れてしまい、しぶしぶ和解に応じたようです。

 

まぁ、中村教授にしてみれば、弁護士から「私は、最高裁の訴訟代理人を受任しません!」とはっきり言われてしまったのでは仕方ないのでしょうが、仮に負けたとしても少なくとも高裁判決のお金は入ってくるわけで(おそらく…)、弁護人を代えるなどしてダメ元でやってもよかったのではないかという疑問が残ります。

 

ところで、疑問が残るというともう1つ。

 

この青色LEDを実用化した中村教授はご存じのようにその後(2014年)、赤崎・天野教授らと共にノーベル賞を授与されたのですが、青色LEDよりも30年以上も前に赤色LEDを発明したアメリカ人のニック・ホロニアック氏はなぜかノーベル賞を授与されていません。

 

つまり、赤色LEDやその後の緑色LEDがすでに発明されていたから、青色LEDも発明されたわけですので、当然に赤色LEDも(緑色LEDも)ノーベル賞を授与されていると思っていたのですがそうはなっていません。しかも、この赤色LEDを発明したホロニアック氏はまだ存命ですので、授与資格はあると思うのですが、なぜ一緒に授与されなかったのでしょう。

 

ちなみにホロニアック氏は、翌年(2015年)、世界に先駆けた発光ダイオード(LED)の開発に対して中村教授らと共に全米技術アカデミーによって授与される科学技術賞である、チャールズ・スターク・ドレイパー賞を受賞しています。

 

ノーベル賞の選考は秘密裏に行われ、その過程は受賞の50年後に公表されるとのことでいまはその理由は分かりませんが、私なりにその理由を考えてみたいと思います。

 

1.社会的貢献度が青色LEDよりも低い
赤色LEDや緑色LEDは、それ自体はたしかに画期的で面白い現象ですが、発色できる色が組み合わせても3色だけですので、列車の時刻表などの一部の表示装置にしか利用できないのに対し、青色LEDは、赤色LEDや緑色LEDと組み合わせるだけでなく、青色LED単独で白色光をはじめ、あらゆる色を作り出せるという特徴があります。

 

そして、白色光はそのまま照明やディスプレイのバックライトとして利用できますので、いままでの白熱灯や蛍光灯に代わる新しい照明用の光源として利用できます(赤色や緑色では日常の照明光として利用できません)。さらにLEDは白熱灯や蛍光灯と比べると長寿命な上に同じ明るさを得るための電気代が半分以下です。

 

これはとても凄いことで単純に考えるとその電気を発電するための化石燃料の消費量が半分ですむということになります。ですので、もし地球上のすべての照明がLEDに変わったら発電のための地球上の石油の消費量が半分となり、温室効果ガスの排出量も大幅に減少されることになります。おそらくこれが赤色LEDが見送られて青色LEDだけが受賞に至った最大の理由だと思います。

 

2.アメリカ人が多い
歴代のノーベル賞の受賞者の約30%はアメリカ人です。それだけアメリカは世界の先端技術を引っ張ってきた証拠ですが、そうはいってもあまりにもアメリカ人にばかりに受賞者が偏ってはノーベル賞がアメリカ人のための賞と批判されてしまいます。そのため、あえて今回はアメリカ人のニック・ホロニアック氏を授与対象者から外したのではないかと思います。

 

3.30年間だれも発明できなかった
青色LEDの価値はだれもが認めており、それまで世界中の様々な研究者が挑戦してたにも関わらず赤色LEDが発明されてから30年間、だれも成功しなかった。そんな不可能と思われていた青色LEDを日本人の赤崎・天野教授が成し遂げたわけです。ただ、そんな切望された青色LEDでも製造が困難だったり、実際に作るとなるとコストが掛かりすぎたのでは、広く普及しませんがそれを簡単に実用化したのが中村教授だったのです。30年間だれも発明できなかったことをなし得た。これも青色LEDだけが受賞した理由の1つだと思います。

 

まぁ、いまパッと思いつく理由を書いてみましたが、少なくとも日本人研究者にとってこの賞を授与するか否かはその後の研究者人生や社会的評価に大きく影響してきますので、研究者であればだれもが目指す最終目標ではないでしょうか。

 

ちなみに、マスコミでは毎年候補に挙げられて期待されているもののなかなか受賞に至らない作家の村上春樹氏。今年はどうでしょうか。

 

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