経営者にとって最も大切なこととは何でしょうか。曲がりなりにも経営者の立場になってからずっと考えているテーマです。
営業力や発想力だという人もいれば、人脈や行動力だという人もいます。なかには忍耐力や胆力だという人もいます。健康を第一に挙げる人もいます。
おそらくどれも正解だと思います。
そして、最近ふと思うことはこれらに加えてより大切なことは、事業の終わりを悟り自ら撤退する判断を下す勇気を持てるかどうかということです。
倒産というものはある日突然やってくるものでなく、その前に売り上げが落ちてきたり、お得意様との取引がなくなったりして徐々に経営が悪化していくのが通常です。
経営者の殆どは経営状態が芳しくなければそれを立て直そうと努力します。経営の見直しや新商品の開発、営業力の強化、社員のリストラといった手法です。
それでも不景気や社会情勢の変化、健康状態、高齢化等によりどうしても立て直しが難しいケースがあります。倒産の直接の原因はその殆どが資金繰りの悪化ですが、銀行は取引先がどんな状況だろうと担保以上の融資はしてくれません。
資本主義社会の本質は競争であり、弱肉強食、優勝劣敗です。競争で敗れた者はただリングから去るのみです。
しかし、なかには既に勝負は決まったのにこれを認めようとしない経営者がいます。まだ何とかなるのではないか、という何の根拠もない希望にすがりついて悪あがきをするのです。
その結果、最後にはどうすることもできなくなって夜逃げという最悪の結末を迎えることになります。夜逃げした本人はそれでいいでしょうが、残された人たちは悲惨です。
もし連帯保証人がいたらその人が全責任を被ることになります。取引先にしてみれば売掛金が回収できず場合によっては連鎖倒産を招きかねません。顧客は放置されたままで途方に暮れてしまいます。
こういった状態になったらもう本人も会社も再起は不可能です。もっと早く余力のあるうちに会社を畳んでおけばこれほど多くの人に迷惑を掛けることもありません。その結果、いつかやり直しのチャンスも巡ってくるかもしれません。
ダメだと思ったら恥を忍んで潔く負けを認め、勇気をもって早めに撤退すること。実はこれこそが経営者にとって最も大切なことではないかと思うのです。