すみれブログ
進歩性なしという拒絶理由を覆す方法
2014年07月28日

特許は出願しただけでは審査して貰えませんので出願から3年以内に審査請求する必要があります。

 

審査請求すると暫く経って審査が開始されてその審査結果が出るのですが、その多くが特許できない(NG)というものであり、その理由が拒絶理由通知として出願人の元に届きます。

 

我々専門家にしてみれば、この拒絶理由通知が届くと手続がしっかり行われているなと感じるのですが、特許出願が初めてで慣れないお客様のなかには、絶望的になってしまい、返金騒ぎまで起こす方がたまにいらっしゃるようです。

 

ですので、初めてのお客様の場合には、最初の打ち合わせのときにこのことをしっかりと説明する必要があり、これを怠ると後々面倒なことになるのです。

 

さて、この拒絶理由にはいろいろなものがあるのですが、このうち最も難儀なのが「進歩性がない」との拒絶理由です。要するに審査した発明は、従来公知の発明あるいは周知技術の単なる組み合わせに過ぎないから保護するに値しないとの認定です。

 

そこで、出願人側としてはこの拒絶理由を覆すために様々な対応をとることになります。

 

先ず、最も効果的なのは「進歩性がない」と認定された請求項を削除補正することです。例えば請求項が3つあり、請求項1のみに拒絶理由があればこの請求項1を削除し、請求項2と3のみを残すように補正するのです。これでほぼ100%拒絶理由が解消されて特許になります。

 

しかし、これはある意味全面降伏であり、審査官の認定を受け入れざるを得ないと判断したときのみです。また、全ての請求項に対して進歩性なしと判断された場合には、特許を断念することを意味します。

 

次に、考えられるのは発明の構成を変えることです。例えば、構成A+Bからなる発明に進歩性がないと判断され、それを受け入れざるを得ない場合には、例えば構成Bを構成bに減縮したり、さらに構成Cを付け加えるような補正をすることです。

 

そして、再審査の結果この補正によって構成が変わった発明が当業者が容易に発明できたものでないと判断されれば拒絶理由が解消されて特許になります。実務上最も多いケースです。

 

しかし、構成要素の減縮や新たな構成要素の付加はそれだけ権利範囲を狭めてしまいますので特許にはなったものの実際には権利として使い物にならないというケースも考えられます。

 

これに対し、上記のような補正を一切せずに審査官の認定を真っ向から否定する対応もあります。しかし、これはプライドの高い審査官の考え方の過ちを指摘することですから、引用発明のミスなどといった明らかな過ちがある場合以外は簡単に認めてくれません。

 

それでもどうしても請求した範囲で特許が欲しい場合には、何とかこの審査官の考えを変えて貰う必要があり、実はこれこそが弁理士の腕の見せ所でもあります。

 

それでは、弁理士はどのようにしてこの拒絶理由を覆すのでしょうか。その前に審査官はどのようなロジックで進歩性の有無を判断するのでしょうか。いうまでもなく今朝は遅刻してむしゃくしゃしてるから「拒絶」とか、今日はボーナス支給日で気分がいいから「特許」ということはもちろんありません(多分)。彼を知り己を知れば百戦殆うからずという孫子のことわざはこの拒絶理由通知の対応にも当て嵌まります。

 

特許の審査というのは、特許庁の特許・実用審査審査基準で決められた一定のルールに基づいて行われます。詳しいことは特許庁ホームページをご覧頂ければよいとして進歩性の判断に関して簡単にまとめると以下のとおりです。

①請求項に係る発明(審査対象となる本願発明)の認定

本願発明の認定は特段の事情がない限り、特許請求の範囲の記載に基づきます。

②主引用発明の認定

本願発明が認定されたら「論理づけに最も適した一の引用発明(主引用発明)」を選びます。

③本願発明と主引用発明との一致点・相違点の認定

本願発明と主引用発明との構成上の一致点・相違点を認定します。

④相違点の検討(進歩性判断の論理づけ)

そして、本願発明と主引用発明との一致点・相違点を認定したならば、進歩性の存在を否定し得る論理の構築を試み、論理づけができた場合は進歩性が否定され、論理づけができない場合は進歩性を有することになります。具体的には、公知技術の組み合わせや置換が容易であるか、それを阻害する要因はあるか、単なる設計事項の変更か、予想以上の効果があるかなどの観点からの論理づけが行われます。

 

専門外の方は、何のことかよく分からないと思いますが、要するにこの①~④のどれかを否定すれば論理づけができないため、進歩性が認められることになります。特に②や④については審査官の誤解や主観が入り込む余地が大ですので、弁理士は拒絶理由通知や引用文献を熟読し、進歩性に関する判例なども調べてこの部分から突破口を見いだすのです。

 

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