すみれブログ
特許公報が読みにくいワケ
2014年05月20日

ときどきお客様から特許公報(特許明細書)の内容がさっぱりわからない、というご意見を受けることがあります。

 

私たち専門家も常日頃から大量の特許公報を読むのですが、たしかに分かり難い。

 

最後まで読んで理解できればいい方で、なかには何度も何度も読み返してやっと理解できるようなものもあります。読んでいるうちにだんだんと腹が立ってきて、同業者ながらどうしてこんな文章を書くのかと不思議に思うこともしばしば。

 

例えばシステム(物)の構造を説明する場合には、先ずそのシステム全体の基本構成を説明してから徐々に各構成要素の説明に入るのが分かりやすいのですが、いきなり各論の説明から入り最後にやっと全体の説明がある。

 

方法の発明の場合も先ず基本的な流れを時系列で説明するのがわかりやすのですが、いきなり発明の特徴部分の工程を説明したり、発明の特徴部分と関係のない構成や従来技術をくどくどと説明している、なんていうのも珍しくありません。

 

また、やたらと修飾語が多すぎて二行目の後半でやっと主語が出てきたり、句や節の係り受け関係が不明だったり、ある句だけが宙に浮いている状態、というのも見受けられます。

 

なぜ、こんな文章がまかり通っているのでしょうか?

 

その理由はいろいろあるのですが、やはり最も大きな理由は「わかりやすく書く必要がない」からだと思います。

 

もし新聞や雑誌の記者がこんな文章を書いていたら直ぐにクビになってしまうでしょう。

 

ところが特許明細書の場合は、わかりやすさはそれほど重要ではないのです。

 

それよりも書くべきことがちゃんと書いてあるかのほうが遙かに重要なのです。「弾性体はバネである」とだけ書くよりも、「弾性体はバネまたはゴムである」と書いた方が権利範囲が広く解釈されるのです。

 

特許明細書を書くためには実はいろいろなルールやコツがあり、これを無視したり知らなかったりすると拒絶理由を受けたり、いたずらに権利範囲が狭くなってしまうことがあるのです。しかも、そのルールやコツについては一冊の本が書けるほど盛りだくさんです。

 

そうすると弁理士(またはその補助者)のように特許明細書を書く立場からすれば、このルールやコツを守ることに最も注力するわけで、わかりやすさはどうしても二の次になってしまう傾向があります。

 

また、発注側のクライアントや審査をする特許庁サイドでも、わかりやすさについてはあまり重視しないという事情もあります。

 

さすがに日本語として成立していない場合には拒絶理由が通知されますが、単に読みにくいという拒絶理由はないのです。

 

そのわかりにくさが書き手側の技術理解力や文章作成能力の低さだけでなく、発明自体が技術的に難解な場合には、却って分からないということが自らの読解力や技術的知識不足を露呈するのではないか、という読み手側の心理的な面も影響しているのかもしれません。

 

また、同業者の場合は相手への批判がブーメランのように自分に返ってくるのをおそれて明言するのが憚られるのかも。

 

そういうわけで特許公報は読みにくいものが多いのですが、とはいってもやはり人に読んで貰うものである以上、できるだけわかりやすく書くべきであることは間違いありません。

 

ちなみに裁判の判決文や役所の通知なんかもわかり難い文章の代表ですね。読むのがイヤになってくる…、というか案外それが狙いだったりして。

 

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