すみれブログ
特許は誰のもの?
2012年03月17日

特許権は、その発明を完成した発明者のものと考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。

 

特許権やその前段階といえる特許を受ける権利は、他の財産権と同様に他人に譲渡できるため、その権利を譲り受けた者が特許権の所有者(特許権者)となります。

 

例えば、会社の研究開発部門に勤務する従業員が職務上完成した発明は、勤務規則などの契約により、その特許を受ける権利を予約承継したその会社が特許権者となるのが一般的です。その発明を完成した従業員はその貢献度に応じて会社からご褒美をもらえるに過ぎません。

 

このような会社の従業員が完成した発明の取り扱いについてキチンとした勤務規則をつくっていなかったり、その発明をした従業員が満足するような報奨金なりポストなどを与えないと、その会社は従業員から訴えられる場合があります。

 

この種の訴訟として有名なのは、いわゆる青色LED訴訟です。東京地裁は原告である発明者の主張をほぼ全面的に受け入れ,200億円を超える巨額な相当対価の支払いを被告である会社側に命じました(※1)。

 

特許権や著作権などの知的財産権は、物や土地などのような実体を伴わないため、事実上の占有ができません。そのため、その発明について正当な権利を有しない者が勝手に特許出願(これを冒認出願といいます)して特許権を取得することも可能です。

 

また、2人以上の者が共同してひとつの発明を完成し、それぞれに特許を受ける権利が発生した場合には、それぞれの権利者が共同で特許出願を行わなければ特許を受けることができません。しかし、各権利者の発明に対する見解の違いや発注元企業と下請け企業といった権利者間の力関係などによって、一部の権利者が単独で特許出願して特許を取得するケースがあります。

 

このように正当な権原を有しない者や一部の者が抜け駆けして特許権を取得してしまった場合、真の権利者はどうしたらよいでしょうか。

 

特許権設定登録前であれば真の権利者は、特許を受ける権利を有することの確認訴訟の確定判決を得ることにより、単独で冒認出願等の出願人名義を変更することが認められています。

 

一方、特許権設定登録後では、第三者により譲渡証が偽造されて出願人名義が変更された事案において、特許権の移転登録手続請求が認められた事例があります。

 

しかし、そのためには、真の権利者が自ら出願していることが条件ですが、その発明が出願公開された日から六ヶ月以内に出願しなければならず、その事実を六ヶ月以降に知った場合にはもはや手遅れです。

 

このように現行の特許法では、他人の冒認出願には十分対応できなかったのですが、平成23年の知的財産法の改正により、真の権利者が自ら出願していたか否かにかかわらず、真の権利者が、冒認出願等に基づく特許権の特許権者に対して、その特許権(共同出願違反の場合は、その持分)の移転を請求することができる制度(移転請求制度)が導入されました。

 

とはいってもこの制度の適用を受けるためには面倒な手続きが必要になることは間違いありません。ですので、経営者の方々はこのような問題が起きないように自社の発明をしっかりと管理し、共同開発研究を行う場合には事前にキチンとした契約を取り交わしておくという意識が大切です。

 

※1:最終的には控訴審において約8億円で和解が成立しています。

 

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