すみれブログ
他山の石
2012年03月23日

先日の発明対価に関する知財高裁の判決に続き、昨日は切り餅事件の判決が出ました。

この事件は切り餅という身近な商品に関する特許を巡る争いだけにマスコミの関心も高く、NHKや民法のニュースでも取り上げていましたね。この事件についてはこのブログのネタが満載ですので後日追々解説したいと思います。

今回は、つい最近東京地裁で判決が出た決定処分取消請求事件(平成23年(行ウ)第542号)について触れたい思います。

この事件は、原告であるドイツの出願人が国際特許出願の翻訳文の提出の有効性を巡って特許庁長官を被告として争った事件です。

事件の概要は以下の通りです。

原告である出願人は、先に米国でした特許出願を基礎とした優先権を伴う国際特許出願を欧州特許庁にしました。この出願を我が国に移行するためには、優先日から30月以内に所定の書面と翻訳文を特許庁に提出しなければならず、この手続きを怠るとその国際特許出願は取り下げたものとみなされます。

ところが、原告は所定の書面は提出期限内に提出したのですが、翻訳文は期限経過した後、数日経ってから提出したのです。このため、特許庁は翻訳文が提出期限内に提出されなかったことを理由に所定の書面を却下処分としました。

原告はその後特許庁に対し、「パリ条約による優先権主張取下書」と題する書面を提出してその国際特許出願の優先権を取り下げる手続きをすると共に、この優先権主張の取り下げによってその国際特許出願の優先日が現実の国際出願日まで繰り下がったから翻訳文の提出は法定の期限内となり、従って、特許庁の却下処分は違法であるとの異議申し立てをしたのです。

これに対して特許庁はその異議申立てを棄却決定したため、原告はこの決定の取消を求めて東京地裁に訴えを提起したのです。

このような原告の主張に対し、東京地裁は、
1 原告は,①平成22年1月22日に原告が特許庁長官に対し本件国際特許出願に関して本件取下書を提出したことにより,本件国際特許出願における2007年(平成19年)1月23日を優先日とするパリ条約による優先権主張は取り下げられた,②その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がる,③その結果,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も,上記国際出願日である平成20年1月23日から2年6月が経過する平成22年7月23日に繰り下がることになる旨主張する。
しかしながら,原告の主張は採用することができない。すなわち,原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約に基づいてパリ条約による優先権主張を伴う本件国際出願をし,本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされ(本件国際特許出願),本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったにもかかわらず,原告は当該提出期間の満了日までに上記翻
訳文を提出しなかった(前記第2の2(1),(2)ア,イ)のであるから,同法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなされる。
そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していなかったことになるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続を観念することはできないというべきである。
したがって,原告による本件取下書の提出をもって,原告が主張する上記②③のような本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものということはできず,これに反する原告の主張は採用できない。
2 原告は,特許法43条1項に基づくパリ条約による優先権主張の取下げについて,現行法上認められない手続であるとした本件異議決定は誤りであるとも主張する。
しかしながら,上記1の判断は,特許法がパリ条約による優先権主張の取下げを認めるものか否かの解釈によって左右されるものではないから,上記原告の主張については判断の限りでない

として原告の訴えを棄却しました。

原告がその翻訳文を所定の書面とともに所定の期限内に特許庁に提出しておけば、「パリ条約による優先権主張取下書」などというムリ技を使う必要もなかったのですが、なぜそうしなかったのか疑問です。

判決文を読む限りではその理由は分かりませんが、もしその原因が我が国の代理人(弁理士)のミスであったならば大変なことです。最悪の場合、その代理人は原告から契約を解除された上に、莫大な損害賠償を請求されるかもしれません。

知財関係の手続きには本件のようなケース以外にも様々な手続き期間が定められており、これをうっかり徒過すると大変なことになります。私もこれを他山の石としてもう一度気を引き締めて業務にあたろうと思います。

ちなみに、平成23年の特許法改正では、このように外国語特許出願の翻訳文提出期間を徒過した場合でもその日から最大で1年以内であれば、一定の事情に限り翻訳文を提出できるとの救済規定が採用されました。

しかし、この規定は施行日(4月1日)前に取り下げとなった出願については適用されないため、いずれにしても原告は控訴して勝訴しなければ、特許をとることはできなくなってしまいました。

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