すみれブログ
アップルとサムソンの仁義なき特許戦争(1)
2012年09月6日

現在、世界中で争われているアップルとサムソンの特許訴訟について我が国でも東京地裁判決がでました。東京地裁ではアップルの特許を侵害しないとしてサムソン側に軍配を上げました。この特許訴訟についても多くのマスコミが大々的に報道しています。なかには各国毎の勝敗表を作って楽しんでいるところもありますね。

この訴訟の判決文が一昨日公開されましたので今回はこの事件について解説したいと思います。なお、このブログはタイトル通り忙しい会社経営者の方でもその概略が簡単にわかるように詳しい説明は割愛させて頂きます。

まず、この裁判を解説する前にその前提となる一般的な技術について説明します。
みなさんは「ipot」や「ウォークマン」などと呼ばれている最近の携帯型音楽プレーヤーをご存じでしょうか?

これは半導体メモリやハードディスクなどの記憶装置を備えた手のひらよりも小さいサイズの電子機器で、数千曲もの楽曲をデジタルデータとして保存してその中から好きな音楽を瞬時に呼び出して鑑賞できる優れモノです。私も通勤途中に英会話の勉強でもと考えて購入したのですが、今では完全に娘のモノとなってしまいました。

さて、この携帯型音楽プレーヤーで好きな楽曲を聴くためにはどうしたらよいでしょうか?取り敢えず、まずこれらの携帯型音楽プレーヤーを手に入れる必要があります。しかし、当然のことながら買ってきたばかりの音楽プレーヤーには何も入っていませんのでそのままでは音楽を鑑賞することはできません。

そこで、この音楽プレーヤー内に自分の好きな楽曲を選んで保存(記憶)させる作業が必要になりますが、通常この作業はパソコンを用いて行います。CDやネットからお気に入りの楽曲を一旦パソコンに取り込むと共に、このパソコンと音楽プレーヤーをUSBケーブルなどで繋ぎ、その後このパソコンからケーブルを介してその楽曲(音楽データ)を音楽プレーヤー内に転送(コピー)して保存するのです。

そして、この作業は通常その音楽プレーヤーのメーカーが提供する専用のソフトウェアを用いて行います。例えば、「ipot」であればアップル社から提供される「iTunes」というデータファイル管理・編集用のアプリケーションソフトウェアを、また、「ウォークマン」であれば、ソニーから提供される「X-アプリ(エックス・アプリ)」という専用のアプリケーションソフトウェアを用いて行います。ちなみにこれらのデータファイル管理・編集用のアプリケーションソフトウェアは、音楽プレーヤーからパソコンに取り込むか、ネットでダウンロードすることで簡単に手に入れることができます。

つまり、最近の携帯型音楽プレーヤーで音楽を楽しむためには、少なくともプレーヤー本体の他に、音楽ファイルと、パソコンと、ケーブルと、専用のソフトウェアが必要になるわけです。

さて、以下の図をご覧下さい。これは今回の訴訟においてサムソン側が侵害したとされるアップルが所有する特許権(特許第4204977号)の明細書に添付された図面です。

20120906204821807501.gif

図の符号202で示されるメディアプレーヤなるものが例えば前述した携帯型音楽プレーヤー、符号204で示されるものがパソコン、符号206で示されるメディアマネージャーなるものが例えば前述した専用のソフトウェア、符号212で示されるものが例えば前述したUSBケーブルです。

そして、このメディアプレーヤ202とパソコン204には、それぞれの音楽ファイルが保存記憶されたメディアデータベース208、210が設けられています。この特許(明細書)では、これらをメディアシンクロシステム200と呼んでいます。

ユーザーはこのメディアシンクロシステム200を用いて楽曲の転送や編集作業などを行うのですが、このメディアシンクロシステム200は、それだけでなく、メディアプレーヤ202側のデータベース210に保存されたプレーヤメディア情報と、パソコン204側のデータベース208に保存されたプレーヤメディア情報とを比較し、それらの情報が一致していないときは、両者が一致するようにそのメディアコンテンツをシンクロ(一致)する機能を有しています。

例えば、ユーザーがパソコン204上で動く専用のソフトウェア(メディアマネージャー206)を操作してパソコン204側に保存されたある音楽ファイルを削除すると、その後ケーブル212をパソコン204に繋いだときにそれと一致(シンクロ)するようにメディアプレーヤ202側に保存されたその音楽ファイルと同じ音楽ファイルが自動的に削除されます。また、パソコン204側に保存されたある音楽ファイルのタイトル名を変更するとそれとシンクロしてメディアプレーヤ202側に保存されたその音楽ファイルと同じ音楽ファイルのタイトル名が自動的に変更されることになります。

そして、このシンクロ機能こそがこの特許権の特許発明の内容であり、アップルはサムソンのスマートフォン(内のメディアプレーヤ202)がこの発明を無断で実施しているから特許権を侵害しているとして訴えたのです。

特許権の権利範囲は、特許請求の範囲の請求項に記載された文言によって決まりますので、特許権侵害訴訟の現場においては、被告側がこの特許請求の範囲の請求項に記載された文言通りの発明を(何の権原もなしに)実施しているか否かによって侵害の有無が判断されます。

裁判所は、この文言通りの発明を被告側が実施していると判断すれば、特許権を侵害しているとの判決をし、反対にこの文言の一部でも実施していないと判断すれば、特許権侵害ではないとの判決をします。

以下は、この特許を侵害したと主張する特許権の1つ(請求項11)を示したものです。

請求項11
「メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって,前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し,前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており,前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは,前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に,メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名,アーチスト名および品質上の特徴を備えており,該品質上の特徴には,ビットレート,サンプルレート,イコライゼーション設定,ボリューム設定,および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており,前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し,両者が不一致の場合に,両者が一致するように,前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。」

このままではわかりにくいので、各構成要素(ステップ)ごとに分節すると以下の通りです。

(A) メディアプレーヤーのメディアコンテンツをホストコンピュータとシンクロする方法であって,
(B) 前記メディアプレーヤーが前記ホストコンピュータに接続されたことを検出し,
(C) 前記メディアプレーヤーはプレーヤーメディア情報を記憶しており,
(D) 前記ホストコンピュータはホストメディア情報を記憶しており,

(E) 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とは,前記メディアプレーヤーにより再生可能なコンテンツの1つであるメディアアイテム毎に,メディアアイテムの属性として少なくともタイトル名,アーチスト名および品質上の特徴を備えており,
(F) 該品質上の特徴には,ビットレート,サンプルレート,イコライゼーション設定,ボリューム設定,および総時間のうちの少なくとも1つが含まれており,
(G) 前記プレーヤーメディア情報と前記ホストメディア情報とを比較して両者の一致・不一致を判定し,両者が不一致の場合に,両者が一致するように,前記メディアコンテンツのシンクロを行なう方法。

そして、前述したようにアップル(原告)側は、様々な証拠を元にサムソン(被告)の製品がこれらの構成(A)乃至(G)のすべてを実施しているから、被告は原告の特許権を侵害すると主張し、その実施に対する損害賠償(1億円)を求めてきたのです。

これに対し、サムソン側は構成要素の(A)乃至(D)の実施については認めたものの、(E)乃至(G)の構成は実施していないから、特許権を侵害していないと反証してきたのです。

これらの攻防について最終的に東京地裁は、サムソン側の主張を全面的に認め、アップル側の主張を退けました。

判決文ではサムソン製品の具体的な態様までは記載されていませんので、この判決が妥当かどうかまではわかりません。しかし、判決文や特許明細書を読む限りでは、仮にこれを不服としてアップル側が控訴してもこの特許に関してはアップル側がやや分が悪いような気がします。

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