すみれブログ
プリンタメーカーvsリサイクル業者
2013年11月5日

前回、前々回と特許権の消尽についてお話ししてきました。つまり、特許権者がその特許製品を正当に譲渡・販売した場合はその特許権は消尽するため、その特許製品を購入した者は、その後その特許製品を転売しようがレンタルしようが特許権者から文句を言われることはありません。

 

しかし、特許製品を購入した者やその者からその特許製品を譲り受けた者が、その特許製品を修理したり消耗部品を交換したりして新品同様にして販売した場合はどうでしょうか。

 

例えば、プリンタのインクカードリッジは中身のインクが無くなったらインクカードリッジごと新たなものに交換する必要があります。でも、そのメーカーが指定する純正の交換用インクはちょっと高いのが難点です。例えば6色カラーインクのセットとなると5000円前後します。仕事で使う分には仕方がないにしても個人が趣味で使うにはホイホイと出せる金額ではありません。それにインクカードリッジ自体には全く問題がなさそうですのでそのまま捨ててしまうのはなんとなくエコにも反するような気がします。

 

そこで、これに目を付けたあるリサイクル業者は、使用済みのインクカートリッジを回収して中を洗浄した上で新たなインクを補充したリサイクル品を製造し、これを純正品の7割程度の価格で販売しました。

 

そうなると困るのはそのプリンタメーカーです。プリンタメーカーはそのプリンタ自体は赤字又はそれに近い価格で販売し、その代わりに交換用インクを高く販売することによって収益を得るというビジネスモデルで成り立っているため、リサイクル業者による安いリサイクル品が出回ると、その分自社の純正品が売れなくなってしまい、大きな損失を被ってしまいます。

 

そのため、そのプリンタメーカは、そのインクカートリッジに関する特許権に基づいてそのリサイクル業者によるリサイクル品の製造、販売を差し止める裁判を起こしました。原告であるプリンタメーカ(特許権者)は、リサイクル業者がインクが切れて使用不可になったインクカートリッジを洗浄し、インクを補充して再使用可能にする行為は、特許製品の再生産(製造)にあたるとして特許権侵害を主張したのです。

 

たしかに、リサイクル業者が勝手に特許製品と同じインクカートリッジを製造して販売すれば特許権侵害になるのは明らかですが、前述したようにリサイクル業者が販売するリサイクル品は、特許権者から正当に購入して特許権が消尽した特許製品ですので、これを再生して販売しても特許権者に文句を云われる筋合いはありません。被告であるリサイクル業者は、この特許権の消尽を理由に特許権侵害でないと反論しました。

 

これは数年前に実際に行われた裁判です。

 

裁判所は、原告(特許権者)側の主張を認め、リサイクル業者によるリサイクル品の製造、販売を差し止める判決をしたのです。これによって、リサイクル業者によるリサイクル品の製造、販売はできなくなってしまいました。

 

ところが、現在実際に家電売り場やホームセンターにいくと、リサイクル業者によるリサイクル品や純正品用の補充インクが堂々と販売されています。これはいったいどうしたことでしょうか。

 

実は、こういったプリンタメーカーとリサイクル業者との裁判は、これ以外にもたくさん提起されており、特許権の不備や無効を理由にプリンタメーカー側が負けるというケースがかなり多く出ています。たとえばプリンタメーカーC社の勝訴判決が出た翌日に他のプリンタメーカーE社が敗訴したという例もあります。

 

従って、前記の裁判でリサイクル業者によるリサイクル品の製造・販売行為のすべてが禁止されたわけでなく、現在販売されているリサイクル品は、プリンタメーカー側が裁判で負けてしまったか、あるいは特許で抑えることができなかった製品である、と理解して宜しいかと思います。

 

一般消費者としては、高品質のリサイクル品が安く手に入るのはありがたいのですが、その裏にはプリンタメーカーの開発努力や犠牲が伴っていることを留意する必要がありますね。

 

ちなみに、プリンタメーカーとしてもこのようは現状は放置できないため、今後新たに開発されるインクカートリッジは、特許でしっかりと対策をしてくるはずです。

 

そうなるとリサイクル業者は、合法的なリサイクル品を簡単に作れなくなってしまい、今後リサイクル業者は徐々に排除されていくと考える人もいるかもしれませんが、わたしはそうはならないと思います。

 

ここまでリサイクル品が一般的に普及してきた現状では、新商品が出てもそれが互換性(リサイクル)インクカードリッジが使えないとなると、それを買わないというユーザが現れてくるからです。そうすると、メーカーはリサイクル品が使えるプリンタを残さざるを得なくなってしまう。

 

従って、安いインクが欲しいという需要がある以上、今後両者は一定のシェアを維持しながら共存していくものと考えています。

 

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