すみれブログ
従業員の発明は誰のもの?
2020年09月16日

職務発明制度がわかりにくいとのご指摘がありましたので以下できるだけわかりやすく説明します。

 

ある発明家が新規な発明をした場合、その発明について特許を受けることができるのは当然その発明家個人ですが、その発明家以外の者でもその発明について特許を受けることができます。

 

つまり、ある発明が完成するとそれと同時にその発明について「特許を受ける権利」というものが発生します。もちろんこの「特許を受ける権利」自体はなんら実体のない概念的なものですが、法的には極めて重要な概念です。

 

そして、この「特許を受ける権利」というものは、他人に譲り渡すことができるので、その権利を譲り受けた者が特許出願をして特許権者となることも可能です。必ずしも発明者自身が将来特許権者になるとは限らないのです。

 

ですので、この「特許を受ける権利」がない者、例えばその発明をこっそり盗んだ者やその盗人から発明の内容を得た者(冒認者)が特許庁に対して特許を申請(特許出願)しても、特許を受けることができませんし、仮に特許になったとしてもその後に権利が無効にされてしまいます。「特許を受ける権利」をすでに他人に譲ってしまった発明者自身であっても同じです。

 

では、発明者が企業(使用者)の従業員の場合(職務発明)はどうでしょうか?

 

この場合も原則とおりその発明を完成させた従業員が特許を受ける権利を原始的に取得しますので、発明完成時点ではその従業員だけが特許を取得することが可能です。

 

しかし、その発明の完成に際して企業側(使用者側)はその従業員に給料を払ったり、発明の完成に必要な設備や費用を負担してますし、さらに特許を取るための費用も負担する場合あり、そのままでは企業側があまりにも気の毒です。

 

そこで、特許法ではその従業員が特許を取得した場合には、使用者側に無償の通常実施権が発生するという決まりになっています。つまり、使用者側は、特許権者である従業員が特許を取ってもその許諾を得ることなく、その発明を自由に実施できるようになっているのです。

 

でも、使用者側としては特許権がそのまま従業員側にあると、その特許権が勝手に他人に売られたり、ライバル会社に使用許諾される心配があります。そのため、そうなるまえにできるだけ早くその特許権を従業員から譲り受ける必要があるのですが、従業員に拒否されたら無理です。

 

そこで、特許法は使用者側を保護するために予約承継という制度を認めています。これは、職務発明の完成と同時にその「特許を受ける権利」を使用者側に譲り渡すという契約を従業員との間で予め結んでおくことを認める制度です(研究職や開発職の従業員であれば、入社時に契約させられる場合が多いようです)。

 

ですので、職務発明の場合は仮にその発明をなした従業員が勝手に特許出願しても、その「特許を受ける権利」はすでに使用者側にありますので、権利のない違法な出願(冒認出願)として特許を受けることができませんし、仮に特許になったとしてもその後に権利が無効にされてしまいます。

 

このようにこの予約承継制度は使用者側のメリットばかりですのでそのままでは立場の弱い従業員が可哀相です。

 

そこで、特許法はこのような従業員との間で予約承継の契約を結んだときは、その発明の貢献度に応じて経済的な利益をその従業員に与えることを使用者側に義務付けているのです。

 

この経済的な利益とは、例えば給料やボーナスのアップ、一時金といった金銭の支給がメインですが、そのほかに留学の機会の付与やストックオプションの付与等金銭以外の経済上の利益の付与であってもよいとされています。ただし、表彰状等のように相手方の名誉を表するだけのものは経済的価値を有しないのでダメです。

 

このように特許法では職務発明については厳格なルールを定めているのですが、人材が揃っている大企業や大学ならともかく、中小零細企業では予め従業員との間で予約承継を締結するというのは殆どないのが現状です。

 

ですので職務発明については中小企業といえども予め従業員との間で予約承継についての契約を締結しておかないと後々トラブルの元になりかねないので、弁理士などのアドバイスを受けてできるだけ書面で締結しておくことが望ましいのです。

 
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