すみれブログ
「いきなり!ステーキ」が特許庁に勝訴!
2018年11月28日

3月に書いたブログでも触れた人気ステーキチェーンの「いきなり!ステーキ」が特許庁長官を相手取った特許の取消訴訟で勝ちました。

 

これは結構大きなニュースです。私を含め実務家の多くは原告の株式会社ペッパーフードサービスがほぼ負け確定だろうとの予想が多かったのですが、知財高裁は原告側の主張をほぼ全面的に認めて特許庁の取消決定を取り消しました(あいかわらずややこしい)。

 

これで異議申し立ては特許庁で再審理されることになりますが、天下の特許庁といえども裁判所には逆らえないので間もなく異議申し立ては却下されて特許の維持決定がなされます。

 

この裁判の争点は、株式会社ペッパーフードサービスが特許出願した発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるか否かです。

 

日常会話で私たちがなにげに使っている「発明」というのは、いままでにない新しい物や発想、行為という意味で使っている場合が多いです。例えば新しい道具を作ったときだけでなく、新しい手品とか画期的な勉強方法、妻に浮気がばれない方法を考え出したときにも使っていることでしょう。

 

ところが、特許法で定義されている「発明」の場合は、これよりも概念が狭く上記のように「自然法則を利用した技術的思想の創作」でなければなりません。

 

ですので、新しい手品や勉強方法、純粋なビジネス方法というのは、この定義に当て嵌まりませんので特許を取ることはできないのです。

 

まぁ、そもそも「自然法則」ってなに?「技術的思想」とは?という議論もなくはないのですが、ともかく特許庁も裁判所も出願した発明が「自然法則を利用した技術的思想の創作」でなければ特許を認めてくれません。

 

ペッパーフードが出願した発明は店内でお客さまに提供するサービス方法です。一見するとどこでも独自に工夫されている純粋なビジネス方法のようで特許には認められないようなものです。

 

しかし、この発明は、ステーキの提供方法という純粋なサービスだけでなく、そのサービスに用いる札や計量機、印し等といった道具を構成要素に含む「ステーキの提供システム」というものでした。

 

道具やその道具の組み合わせ自体は上記のように「自然法則を利用した技術的思想の創作」といえますので特許法の「発明」に該当します。

 

しかし、ステーキの提供方法という人間が行う手順は「自然法則を利用した技術的思想の創作」ではなく、また、本発明の本質が経済活動それ自体に向けられたものであって、社会的な仕組みを特定しているに過ぎないため、発明全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当しない。従って、この発明は、特許法で規定する「発明」に該当しないから、特許を取り消す、というのが特許庁の判断でした。

 

これに対し、知財高裁は人間が行う手順を要素として含んでいても他の構成(物品、機器)を採用することで発明の課題を解決できるため、発明全体としてみれば「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する、という特許庁とは真逆の判断をしたのです。

 

まぁ、EPC(欧州特許条約)のように発明自体の定義がない国もありますので、法律で発明を定義する意味がどれだけあるのかよく分かりませんが、今後はこの定義にあまり拘ることなく、一見純粋なビジネス方法であっても、それに使用する道具や機械等を組み合わせて上手にクレームアップすれば特許になることもありそうですね。

 

ちなみにかつて話題になったビジネスモデル特許というのは、その本質はビジネス方法ですが、コンピュータやネットワークなどと組み合わせたソフトウェアに関する発明と捉えることで特許が認められるものですので、今回のケースとはチョット違います。

 

しかし、この特許は、最初の審査ではNG(拒絶理由)、それに反論してOK(特許査定)、その後にまたNG(異議決定)、最終的にOK(異議決定取消)というように天国と地獄を行ったり来たりしてますね。

 

しかも今回特許が維持されても今後無効審判を受けてNG(無効)になる可能性もありますので安心はできません。

 

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