有用な独自の技術的アイデアを開発した場合、これを特許として保護するか、ノウハウとして秘匿化するかという悩ましい問題があります。
特許として保護することを選択した場合、その内容が公開されることにより、広く世間(どころか世界中)に瞬く間に知れ渡ってしまいますが、そのアイデアが物の構造や組み合わせのように、市場に出回った製品をみれば誰でも理解(真似)できるようなものであれば、躊躇無く特許を選択すべきです。
これに対し、製造方法や検査方法のように、自社の工場内のような管理された特定の場所で実施されるアイデアについては特許出願(公開)することなく、これを秘匿化し、ノウハウとして保護した方が良いといわれています。
ノウハウとして保護すれば、その内容が公開されないため、簡単に他人に真似されることなく、秘伝の技として永久的にその技術を独占することが可能だからです。
しかし、ノウハウとして保護することを選択した場合には、それなりに大きなリスクが伴います。
つい最近、大手総合電機メーカー「東芝」の半導体の研究データが韓国の半導体大手メーカーに不正流出した事件で、東芝の業務提携先メーカーの元技術者が逮捕されたというニュースがありました。社内の待遇に不満を持つ技術者が高額の報酬と引き替えに研究データを盗んで提供したとのこと。
会社や組織内で業務上横領などの不祥事が起きた場合には、横領した職員だけでなくその上司や担当役員の責任も追及されるため、通常は秘密裏に処理され、公になることは希です。
この事件は技術的なアイデアというよりもその基礎となる研究データですので特許の対象になるかどうかは分かりませんが、その被害額は1000億円超ともいわれ、いかに甚大な被害を被ったかがわかります。
お金やモノを盗られた場合は返して貰えばいいことですが、技術的アイデアや研究データなどの情報は一旦流出してしまうと、これを回収することは事実上不可能です。独自の技術をノウハウとして保護することを選択した場合、その流出を防止するために万全の管理体制が必要となることを忘れてはなりません。