すみれブログ
特許に新規性は必要ない!?
2012年03月16日

特許をとるためには、様々な条件をクリアしなければなりません。

 

その条件の筆頭が、特許を受けようとする発明が新しいものであること、つまりその発明が「新規性」を有していることです。

 

特許出願前にその発明を公開してしまうとその発明は新規性を喪失してしまい、この条件を満たすことができなくなってしまうので特許を受けることができません。

 

しかし、この原則を貫くといろいろと具合が良くないとのことで、我が国の知的財産法では一部のケースに限り、特許出願前に「新規性」を喪失しても、新規性を喪失していないとみなす取り扱いを受けることができる制度が採用されています。

 

それが特許法第30条などに規定している新規性喪失の例外規定という制度です。

 

研究室に泥棒が入って特許出願前の発明が盗まれて実施されてしまったとか、熾烈な研究開発競争を行っている研究員がライバルに遅れないように特許出願前にその発明を学会や雑誌等で発表してしまった、とかいう場合にはこの制度を利用することができます。

 

しかし、この制度は現実に新規性を喪失したのにもかかわらず、新規性を喪失していないという「例外」を認めるものであるため、厳格に適用すべきです。そのため、この規定の適用を受けるためには一定の条件を満たすと共に面倒な手続きが必要です。

 

その一方、平成23年の法改正により、この規定を受けるための適用範囲が広くなりました。

 

この改正により上記のようなやむを得ないケースばかりでなく、研究開発資金調達のための投資家への説明や研究開発コンソーシアムにおける勉強会での口頭発表、テレビ発表のような場合は勿論、試験販売などのように発明者自身の行為に起因する殆どのケースが認められるようになりました。

 

そうするとこの例外規定が原則となり、出願手続き期間(公表日から6ヶ月)さえまもれば出願前に公知にしても全く問題ない、と軽く考える人も出てくるかもしれません。なかには、意匠のように実際にその発明製品を販売して売れ行きをみてから特許出願を検討すればいいと考える人もいるかもしれません。

 

しかし、それは大きな間違いです。

 

この規定は、あくまでも実際には新規性を喪失したのにもかかわらず、新規性を喪失していないとの取り扱いを受けるだけであって、先願の例外ではないからです。

 

つまり、発明を公開した後に他人がその発明と同じような発明をして先に出願すると、その他人の出願の後に出願されたものとして特許を受けることができなくなってしまいます。

 

さらに、このような例外規定は日本国のみであって、その発明について外国でも特許を受けようとする場合には、同じような取り扱いを受けることができません。その結果、外国ではその公開を理由に拒絶されてしまいます。

 

特にヨーロッパでは、このような新規性喪失の例外規定がありません(※1)ので特許を受けることは不可能です。

 

また、中国でもこの規定と同じような規定がありますが、やたら手続きが複雑だったり期間が短かったりするため、その適用を受けるのは簡単ではありません。

 

一方、米国では猶予期間が1年と長いのですが、米国は先発明主義を採用しており(※2)、また、新規性判断の基準日は発明の日とするなど、特許法自体が他の国とは変わった特殊な制度ですので注意が必要です。

 

いずれにしても、特許出願前に発明を公開するのは非常に危険な行為であり、公開した時点で特許がとれなくなってしまうと考えるべきです。特に外国での特許取得を視野に入れている場合には絶対に出願前の公開は避けるべきです。

 

この制度はあらゆる努力をしたのにもかかわらずやむを得ず新規性を喪失してしまった、という場合の非常の救済措置と考えて間違いないでしょう。

 

※1:意に反して公知になってしまったとか万国博覧会などの有名な国際博覧会に出品した場合といった極めて限定的なケースでは例外が認められることがあります。
※2:2013年春から先願主義に転換

 

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