すみれブログ
甘いリンゴに群がる蟻たち!?
2012年03月18日

米国企業アップル社と中国深センにあるIT企業の唯冠科技との間で「iPad(アイパッド)」の商標権をめぐる争いが一段と泥沼化してきました。

 

この「iPad」の商標権をめぐる争いは、中国での商標権者であると信じていたアップル社が、中国で同じ商標権を有していると主張する唯冠科技から商標権侵害で訴えられ、それが現地の裁判所で認められてしまったという事件です。

 

この事件を巡っては内外の様々なメディアが報じています。しかし、報道の内容が単発的で、また一部誤解があったりして記事の正確性を欠くため、実情を把握するのは難しいのですが、概略すると以下の通りです。

 

アップル社を訴えた唯冠科技という会社は、香港にある唯冠国際という会社の中国における子会社です。この唯冠国際は、台湾にも唯冠電子という別の子会社を持っており、この唯冠電子は今から約10年前、中国を含む10カ国で「iPad」という商標権を取得しました。

 

中国での「iPad」の販売を予定していたアップルは、イギリスの会社を通してこの唯冠電子から「iPad」の商標権を買取ったのですが、実は、この唯冠科技も同じ時期に「iPad」という商標を独自に中国に申請し、商標権を獲得していたのです。

 

アップルは、深センの唯冠科技も台湾の唯冠電子も唯冠国際の子会社であり、「iPad」の譲渡は唯冠国際全体の行為であると主張しており、商標権は自社に帰属するとの確認を求めて高等人民法院(高裁)に控訴しました。

 

一方、深センの唯冠科技はアップルは自社が所有する「iPad」の中国本土での商標権を購入していないと主張し、販売差し止めと100億元(16億ドル)の賠償金を求めて広東省恵州市の中級人民法院(地裁)に提訴しました。地裁は、アップルが購入した商標権には中国の商標権は含まれていないと判断し、アップルの訴えを退けました。アップルはこの判決を不服として上訴しています。

 

ここまでであれば、アップル社と深センの唯冠科技だけの純粋に2社の争いでありますが、最近、この争いに様々な関連企業が参戦してきたのです。

 

この唯冠科技を含む唯冠グループは2008年のリーマンショックによる影響で急激に業績が悪化し、破産寸前の状態でした。そのため、この唯冠科技の債権を有するという中国銀行などの約10の企業が、唯冠科技の商標権は2009年に既にこちらに譲渡されていると主張してきました。

 

また、アップルに商標権を譲渡した香港にある唯冠国際は、詐欺によってアップルに商標権をとられてしまったと主張。噂によると、この唯冠国際がアップルに商標権を譲渡した際に受け取った額はごく僅かであり、同社はこの争いに便乗して多額の賠償金を目論んでいるようです。

 

さらに、この唯冠科技の債権者である台湾の保険大手、富邦産物保険股フン(富邦保険)が深セン市中級人民法院に破産請求してきたのです。中国の法律では、唯冠科技が破産手続きに入るとアップルとの訴訟は中断され、裁判所が指定した破産管財人による唯冠科技の財産整理後に再開されるそうです。

 

今後、アップルは唯冠科技だけでなくこれらの関連企業からの提訴にも対応せざるを得なくなってきました(尤もアップルにとって訴訟は通常業務の一環という人もいますが…)。

 

結局のところ、この事件は中国進出にあたってアップル社がヘタを打ってしまい、唯冠科技やその関連企業がそれにつけ込んでアップル社の莫大な資産(※1)を目当てに群がってきたという印象が拭えません。外国企業が中国進出にあたっては知的財産の分野を含め細心の注意をしなければならないとの教訓を示してくれています。

 

この事件の今後の展開は予断を許しませんが、このように中国で商標権侵害で訴えられ、敗訴した側の対応として考えられるのは、①その商標の使用を中止する、②商標権を買い取るか、使用権を設定する、③その商標権を潰す(無効や取り消し)などです。

 

今回のケースでは③のケースは難しいそうですので、①その商標の使用を中止するか、②相手方の商標権を買い取るか使用権を設定してもらうという2つの方法が考えられます。

 

無難なところでは、②の方法でしょうが、私としては①の方法、つまりアップルは「iPad」という商標の使用を中止(商標の変更)するのがいいと思います。

 

唯冠科技は、裁判で「iPad」という商標の使用中止を請求していますが、唯冠科技の目的はお金ですから、アップルが本当に「iPad」という商標の使用を中止してしまっては困るのです。唯冠科技は、実際に「iPad」という商標を使用していませんので、損害賠償といっても微々たるものです。おそらく裁判費用にもならないでしょう。

 

アップル側でも当然そのことは分かっているはずですので、それをちらつかせて最終的には和解という形で妥当な額で商標権を買い取ることになると思います。

 

むしろ、世界中のマスコミがこの事件を取り上げることによって中国におけるアップルの存在感が増し、結果的に両社ともWIN-WINの結末になるのではないかと思います。

 

※1:2011年末で976億ドル(約8兆円)の手元資金を保有

 

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