すみれブログ
日本語は難しい?-切り餅事件(2)-
2012年05月24日

今朝の読売新聞によれば、化粧品メーカーのファンケルが、ディーエイチシー(DHC)を相手取って損害賠償などを求めた訴訟で、東京地裁はDHCの特許権侵害を認める判決を言い渡したそうです(約1億6500万円の支払い命令)。

 

先の切り餅事件と同様に最近、特許権の威力をまざまざと見せつけられる判決が続々出ていますね。以前は、侵害訴訟を提起しても特許権者側が負けるケースが多かったのですが、潮目が変わったのでしょうか。いずれにしても我々知財に関わる専門家としては喜ばしい傾向(?)です。

 

しかもこの事件は、ファンケルの特許権が特許庁で無効と判断されたにもかかわらず、東京地裁は有効なものと判断しており、今後、控訴審での判断が注目されるところです。

 

さて、今回は、先日予告した切り餅事件に関する第2弾です。
ちょっと専門的な内容となりますが、大事な部分なので敢えて触れておきます。

 

この事件は、第1審(東京地裁)では被告(サトウ食品工業)側の言い分が認められ、原告(越後製菓)側が敗訴してしまいましたが、第2審(知財高裁)では原告側の主張が全面的に認められるという逆転判決がなされています。

 

この一連の裁判での最大の争点の一つは、特許請求の範囲における「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,…一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け」との文言の解釈です。

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20120708130847193438.gif 特許第4111382号公報から引用

 

第1審である東京地裁は、この文言解釈について
…「側周表面」の特定のために特に必要とされない「載置底面又は平坦上面ではなく」との文言があえて付加されていることからすれば,当該文言は,切り込み部等を設ける切餅の部位が,「上側表面部の立直側面である側周表面」であることを特定するのみならず,「載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的に述べるという積極的な意味のある記載であると解釈するのが合理的である。」と判断しています。

 

これに対し、第2審である知財高裁は、
…「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分の直後に,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分が,読点が付されることなく続いているのであって,そのような構文に照らすならば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,その直後の「この小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに,「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である。…
…「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,「側周表面」を特定するための記載であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを除外する意味を有すると理解することは相当でない。
」と判断しています。

 

つまり、第1審はこの文言について「切り込み部又は溝部」は、「上側表面部の立直側面である側周表面」にのみ設け、「載置底面又は平坦上面」には設けないことを意味していると解釈したのに対し、第2審は「切り込み部又は溝部」は、「上側表面部の立直側面である側周表面」に設けるが「載置底面又は平坦上面」には設けないことまで意味しているのではない、と解釈しました。

 

明細書の記載や出願経過などを参酌すると、第1審のような解釈が妥当なような気がしますが、私としては第2審のような解釈をしても何ら違和感を感じません。むしろ、特許明細書を書くことを生業としている立場から云えば、第2審のような権利者側に有利な解釈をして戴くのは非常にうれしいのです。

 

特許明細書というのは(特許明細書に限りませんが…)、弁理士の手作りによる一品製作品ですので時間や手間をかければかけるほど、より完全に近いものができるでしょう。しかし、現実的には限られた予算で限られた時間内に仕上げなければらず、裁判で重箱の隅をつつくような検証をされると、どうしても欠点やミス(瑕疵)が見つかってしまうものです。

 

何とか権利行使を免れようと相手方がそういった欠点をついてくるのは当然のことですが、裁判所がそれをそのまま認めてしまうと、ほとんどの特許権の行使が認められず、多額の費用をかけて特許を取得する意味がないと考える人が出てきます。かつては、そのような傾向があり、よほど確信がないかぎり特許権の行使を躊躇するケースが多かったように思います。

 

しかし、この判決のように権利化の段階における実情を考慮したような判断がなされたことは、やはり特許権侵害の現場において潮目が変わったと云えるのではないでしょうか。

 

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